約束をしたわけではない。
ただ、それが当たり前だったから勘違いをしたんだ。
「秘密だよ」
口元に人差し指をあて、笑う大人の男。悪い男の見本のような男の優しげな笑みは何処か胡散臭く、安心した。
緩んだ襟元を整える姿は男臭さと言うより色気がほんのりとあった。
背広を羽織り、ネクタイを締める様をベッドを挟んで反対側で見つめていた。それに気付いた男の悪い笑み。
「秘密だよ」と嗤った。
それに頷くでもなく男から顔を逸らし、衣服を整えることに集中した。
 また、男が嗤った気がした。


休みの日ぐらい一緒に居てくれてもイイじゃないか、と言う悪態は出かけていった他人のような相方には届かなかった。
幾ら双子だと言えど、容姿も性格も頭のデキすら違う双子は世間一般的に言えば血の繋がりのある姉弟となるのだろう。だが実際血縁者とは言い難い双子の容貌に姉弟ともましてや双子とさえ見られたことのない双子。
それがいけなかったのか。幼い頃は姉弟と見られないことに反発して良く一緒に行動していた。
それが子供心に家族を護りたかったんだと思う。今では昔の欠片さえないほど成長した。
繋いだ手はいつの間にか違う人と結ばれ、当たり前の様に傍にあった温もりは似て異なる温もりに包まれている。
 教師面をした男と教師面すら取り繕うとしない男。
はたしてどっちがマトモなのか分からないが、目の前の男は後者だろうと言う事はわかる。
教師である以前に一人の人間で、一人の男。だからこそ男の腕の中が心地よく、吐き気がした。
どちらにしろ後戻りは出来ない事だけが事実なのだ。
 震える空気に男がまた笑った。
それは男の取り繕ったような笑みではなく、どこか呆れと哀れみが含まれた笑みの様に思えた。
決して手に入らないモノを求めたのはお互い様。
だからこれは同情なんかじゃない。
後から腰に回された腕。首筋に感じる男の吐息。甘やかに囁く毒。
「秘密だよ」と言う男の唇を塞いだ。

またひとつ、誰にも言えない秘密が出来た。