翡翠の瞳が憂鬱気味に伏せられ、思わぬほど長い睫毛が影を落とす様に思わず溜息が漏れそうなほど幻想的な美貌だ。
白銀の髪が蛍光灯の真下でキラキラと輝いている。
細長い指先は男にしては優美である。その指先で弾かれた書類にさえ嫉妬してしまうほど女性社員を虜にする男はまさしく日番谷冬獅郎その人であった。
一見冷ややかにさえ見える翡翠の瞳がちらりと前方斜め、明るい髪色をした同僚へと向けられた。
自然と眉間に寄った皺の数が増えている。それさえも女性社員には魅力的な男に見えるらしい。
手元で盛大に押し潰された書類が握られていても、盲目的な女性社員の目には入らない。
「はぁ」
物鬱げに漏らされた溜息の裏に隠されたモノを敏感に察した日番谷の私設秘書にして日番谷にも劣らぬほどの美貌を持つ美女は内心またか、と流麗な顔を歪めて見せた。
背に流れる金色の髪を鬱陶しげに掻き上げた美女は、上司である日番谷の視線の先にいる人物の不穏な気配にさらに顔を歪めるのだ。
双方、親の敵にでも出会ったような険悪な様子は出会った当初から何ら変わりはしなかった。むしろ酷くなっているような気がするのは決して気のせいではないだろう。
感情の起伏を滅多に見せない上司が盛大に眉間に皺を寄せ、険悪な表情をさらすのを間近に見たのは初めてだった。何事にも冷静沈着がモットーとでも言う様な男が、だ。
そして険悪な表情をさらすのは何も上司だけではないのだと、常日頃眉間に皺を寄せているが好青年と言っても過言ではない優しさを持つ同僚もまた、上司に対しては此処で出会ったが百年目、とでも言うかのような敵意丸出しだ。
ソリが合わない、と言う次元ではないのは見て直ぐに分かる。
「あ〜、室長?」
控えめに美女が上司へと声を掛ける。
前方斜めに位置する席に座った明るめの髪を持つ同僚と火花を散らす様に溜息が漏れた。
存在そのものが気にいらねぇ、と漏らす上司と眉を吊り上げて睨んでくる同僚と饒舌なやり取りを交わしていた。言葉ではなく目で語り合っている。
明るい髪色をした同僚の横で打つ合わせでもしていただろうもう一人の同僚は赤髪を掻きむしりながら盛大に頬を引きつらせていた。