欲情する日
廻り 巡り逢う
それが必然だと言うのならば、世界は偶然で出来ている。
何時からか、其れが当然だと思えるようになったのは。
出掛ける前に『いってきます』。
帰宅したら『ただいま』。
ありふれた言葉の筈が、口にする度に胸の内がホッコリとする感覚。
玄関先ではにかんだ様に微笑む姿に、欲情した。
短き切り揃えられた髪から覗く項(ウナジ)とか。膝丈まであるスカートが歩く度に脚に絡み付く瞬間とか。
欲を掻き立てる様子は多種多様あった。
玄関先に立って見送りをする良き妻の鏡と言える姿。
背筋を這い上がるモノに身震いした。
重役会議を控え、早々に出社する予定が一瞬で崩れ、新たに組み立てられる予定。なにも知らずはみかんだ笑みを浮かべた姿は愛らしく、鳴き叫んだ姿に服従心を煽るのだ。
未だにまっさらな無垢な処女には些か酷だろう欲に、憐れみの眼差しを向けたのは一瞬。迫り来る時間に配慮する気は無く、差し出された鞄が足元に勢いよく落ちた。
驚愕に見開かれた鳶色の瞳の中に映る己の姿は滑稽なほど欲情に濡れていた。