カウンターを陣取った酔っぱらいに混じって薄暗いライトの光を弾く色を見つけたのは偶然。
結婚式の帰りだと漏らした、恐らくは同級の友人だろう男の言葉に苦笑する横顔。少しだけ涙ぐんだ男の肩を叩き慰める仕草を見せた。
 別段女に苦労したことは無い。しいて言うなれば言い寄ってくる女が五月蝿いくらいだろうか。
少し擦れた、酔いの回った口調とか。ほんのりと上気した頬とか。舌足らずな口調は乙だといえる。酒で潤んだ瞳がなんとも扇情的だ。
それをおしべもなく見せる客の姿に目を奪われた。
全くの不覚だといえる。脊髄から脳天まで駆け上がり、脳を沸騰させる。
周りの音が雑音に聞こえてくる。注文してくる酔った客を無視して手元のグラスが静かに足元へと落ちた。
その瞬間がスローモーションの様に映るのは気のせいだろうか。
鮮明なほど柑橘系の髪が彩る世界が欲しいと思えた。
腰に響く鈍痛の意味を知らないわけじゃない。うずく、とも言えるその感覚と衝動に目の前から目が離せない。
「ちょっと・・・アンタ何やってるのよ!!」
 同僚の女の悲鳴じみた声が耳を掠めた。
カウンターで飲んでいた鳶色の瞳が驚きに見開かれ、その隣で涙ぐんでいた男があんぐりと口を開け、間抜け顔をさらしている。
仄かに香る甘い酒の匂いよりももっと扇情的で熟れた果実のような唇に食いついた。
 カウンターから身を乗り出し、驚いた瞳の中に映る己の姿があまりにも可笑しくて笑えるだろう。
その瞳に己だけを映せばいいのに、と思えたら最後。思考と身体が全く違った動きを見せる。
それが、悪くない、と思えるのはこの目の前の酒の力だけではなく潤みを帯びた鳶色の瞳のせいだろう。
次を強請る娼婦の様な紅く熟れた唇に角度を変え、何度も貪る姿はまるで獣のように。
驚きに見開かれた瞳が次第にトロリ、と快楽に酔いしれる。ささやかな抵抗を見せる手は縋る様に肩に置かれた。
 このままお持ち帰りしても良いだろうか、と本気で考えた。
後ろから洋服の裾を引っ張る同僚とカウンターに座ったままの馬鹿面を晒したままの男が制止するまで、その蜜事は薄暗い店内で続けられるのだ。