はっきり言って変態と関わりあうのは避けたいのだが、如何せん何故だか周りに集まってくる変態どもは個性豊かと言うか、流石変態、と褒め称えても問題ないくらいの変人さと変態さを併せ持った野郎だらけだ。
ストーカーなんて可愛げのある子供の遊びのように思えてくるくらいには、周りの奴らの変態スキルは結構上である。
部屋中に仕込まれた盗聴器とカメラを毎日外すのは結構な重労働だ。いくら言っても不法侵入の上、盗聴器を仕掛ける男はこれで二人目、と言うところだ。流石にバスルームに仕掛けられたものは全て取り外している。
だが、寝室にあるのは数えるだけでウンザリする代物であり、下手に触れば苦情を言ってくる。これには丁重に変態さんの相手をさせていただいている。主に拳で、だが。
子供の頃まではここまであからさまな変態は居なかった気がするが、年々変態の性能が上がっていっている昨今の変態事情。
その中でもっとも変態度の高い男は隣のマンションに住む引き篭もりだ。
くすんだ髪色の無精髭の男は、子供の頃母親に手を引かれて通った空手道場からの知り合いだ。
その男の名を浦原喜助と言う。
出会った当初の浦原喜助は至って真面目、と言うわけでもないが現在の変態さを滲ませてはいなかった様な気がする。この浦原喜助の悪友とも呼べる女傑は豪快な気の良い人で、人目を惹く美貌の持ち主は変わり果てた悪友の姿にも鼻で笑ってお仕舞いだ。まるで最初っから当然だ、と言うような対応に少々面食らったが流石変態浦原喜助の悪友である、と納得した。
そしてもう一人の変態は、と言うと浦原喜助とは間逆の位置にある隣の部屋の住人だ。
引越しの挨拶で隣へと伺った折対面した男は優しげな面立ちと黒縁眼鏡の好青年、と言えた。だが実際には結構な腹黒さと滑稽なまでの周到さを持つ男だ。
名を藍染惣右介。
職業高校教師との事だが、絶対この男が教壇に立つのは可笑しいと思えるくらいには付き合いがある。
藍染惣右介は温和な性格で知られているが、その実は臓腑がドス黒い程の純黒であり浦原喜助とは天敵な間柄だ。主に盗聴器仲間、とも言えるが。
そしてそんな二人の変態に左右挟まれて居るのが、三年連続ミス空座に選ばれた少年である。
橙色の髪と母親譲りの整った顔立ち。幼さの残る中世的な容貌は男女隔てなく人目を惹く。
だからと言ってここまで変態に好かれる要因を生み出しているのは、その性格と言うべきなのか滲み出るお人よしさとか優しさとか。ノーマルをアブノーマルへと引き摺り込んでしまう、そんな存在感の持ち主でもある。
未だ少年と青年の中間に居るミス空座こと黒崎一護。今年十六を迎える、れっきとした男だ。
平均より線の細い腰や程よく付いた筋肉とか、まるで誘うかの様に色付いた唇とか。変態の目線から言わせればきりが無いほど黒崎一護の持つ天性のタラシは生まれた時から健在である。
そして誑し込まれた者たちの運命は、黒崎一護の実母と実父と実妹に寄って昇天されるのが習わしだ。だがそれには例外もあるわけで、懲りずに黒崎一護に近づく輩は減るどころか増える一方だ。
故に苦肉の策として変態の中の変態によって囲われた生活が実現されたのだ。
壁一枚を隔てた向こう側には変態。右を見ても変態。左を見ても変態。ハッキリ言って一生関わりたくない部類の存在との対面は心底ウンザリしているわけで、しかも現在進行形で友情と言うか信頼関係と言うか、なんだか変な関係が築かれてしまっている。黒崎一護の人生は思わぬ方向へと進路を進めながらも天然は天然だったという話だ。
危機管理能力ゼロに近い黒崎一護は変態の中でも逞しく生きていけるらしい。そして日々悶々とする変態が居る。
今日も今日とて変態との一触即発な爽やかな朝を向かえ、黒崎一護の一日は始まるのだ。
そして変態が変態である所以は日々の悶々とした下半身事情によるものだと浦原喜助と藍染惣右介によって証明された。
据え膳食わぬは男の恥、とはよく言った言葉であり、この二人の変態にとっては据え膳を食らう前に互いの存在が邪魔でしかなく、ましてや想い人に邪な感情を抱く互いが鬱陶しいほど。
ベッドの中央で危機管理能力ゼロの黒崎一護がすやすやと穏やかな寝息を立てている姿に手が伸びる。だが互いに牽制しあい中々手が出せない。
そんな日々にそろそろ限界を感じた二人の変態は終に行動へ映すのだが、決まって二人の変態は互いの存在が気になって仕方が無い。そんな二人の変態に黒崎一護は恋煩いだと言った。互いの存在が気になって仕方が無いのは、互いに気があるからだ、とも。
それから二人の変態は変態の中の変態を極める厳しい道を歩むのだ。