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まったくもって理不尽極まりない。
二年前までは新入社員として雑用を押し付けられ、一年前は漸く先輩たちに交じって仕事を任され始めたそんな矢先だった。
怠慢気味の上司の口癖は『経費削減』。
接待に使う金はあっても部下の経費はとことん削減させる上司に不満はあったがそれを口にすることはなかった。
何故ならこの不況下で会社を首になったら職のあてなどありはしないのだから。
我慢、我慢、我慢の連続。寿退社をしていった同僚が羨ましいと心底思えるくらいは我慢の連続で、そんな折上司が得意先の会社でヘマをやらかした。
新入社員の頃はコピー一枚とるにもミスはあったが、先輩に連れられ営業に出てからはそのミスさえも会社にとってはリスクを背負う惨事になるわけで、それを上司は見事にやってしまったのだ。
しかも得意先とあって常務から社長まで出てくる始末へと発展した。
就職した先が小ぢんまりとした会社だったのが運のつきだったのかもしれない。
得意先は世界屈指の会社だったのがいけなかった。
小さな会社ではまるで太刀打ちできるはずもなく、上司の蒼白の顔を連日見る事は無かったのが何よりの救いだった。だからと言って上司の尻拭いは続いていた。
あらゆる方面の対応に連日駆り出され漸く落ち着きを見せた時には倒産の危機だったと言うのはどんなオチなのだろうか。
突然血相を変えて狭いフロアへと駆け込んで来た、ここ最近顔を見なかった上司に有無を言わさず腕を引かれて連れて行かされた先は社長室。
空調の行き届いた室内は厭に静か過ぎた。
物珍しさにキョロキョロと周りを見渡せば必死に汗を拭う仕草を見せる社長の姿ともうひとつ。対面のソファーに座る偉人。
一瞬にして目を奪われる、そんな色彩を持った男は、まさに偉人。
大会社。上司がヘマをやらかした会社の室長だったか、部長だったか。まぁ、お約束の偉い奴だと言う事は変わりない。
俺は不機嫌だ、と言うかのように眉間に寄った皺は一向に薄れることは無く、むしろさらに酷くなっているような気がするのは気のせいなのだろうか。
何が何だか分からず言われるままに低姿勢の社長の隣に座され、汗でつるつるした禿頭を見ずにすんだことが何よりだろう。
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