笑っている顔があまりにも無垢すぎて、見据える瞳の先に映る光景が美しいものであればいいと願った。
大切な人の、大切な子供だから・・・。フワリと風に靡く金色があまりにも眩しくて、子供特有の高い体温が懐かしく、切ないものだと知った瞬間、失えないと思ったから。
 辺りに漂う澱んだ空気を更に澱ませるのは、鉄の臭いが充満した生臭さだった。
右手に持ったクナイ。託されたモノ。
憎しみを込めた視線が突き刺さる中、命の鼓動を響かせて泣く小さなソレを抱きしめた。
 空に月が昇り、そして朝が来る。
季節は移り変わり、人々の思い出は記憶へと代わる。それでも、この小さすぎる程小さな命の鼓動は代わることなく、そこに存在し続けるのだろう。
 今更詩人になるわけでもないが、それでも、抱きしめたソレがあまりにも小さすぎて、忘れ去ったかつての思い出と共に暖かさを教えてくれたから。
「カカシ」
 呼ばれた名に振り返れば、そこには苦渋の表情を浮かべた里一の忍びの姿。かつて。そう、既に過去として存在する師と共に里の頂をえた、三代目火影。
もし師が生きていたならば、笑って"ただいま"と呟いていただろう。だが、自分にはそんな事できるはずもなく、憧れ続けた師の命駆けて守った託されたモノを胸に抱きしめたまま頭を垂れるのだ。
「はたけカカシ。只今戻りました」
「うむ」
 闇夜に浮かぶ月が地上を照らし出す。
疲れ果てた火影の表情から目を逸らし、背後に控えた同胞から守るように抱きしめた小さなソレが身じろぎ、己を主張するかのように声高々と泣いた。
「あやつは 逝ったか」
 確信に近いその言葉は、疑問系でもなければ己に言い聞かせるように。
太陽のように暖かな金色の髪。空を凝縮したような澄んだ蒼い瞳はいつも嬉しそうに細められていた。笑った顔が好きで、偶に真面目に仕事していると空から槍が降ってくるんじゃないかと危惧したり。ありふれた日常の中で、里一番の忍びである師が目標だった。
 いつか別れが有ろうとも、それが今ではないと漠然ながら考えていた日常にサヨナラ。
泣けるに泣けない。師らしい逝き方。笑って"お願い"されたら、誰だって頷くしかない。確信犯で、世界は自分のためにあるのだと思っているような人なのに、里一番の忍。
 一陣の風が、木の葉の里に舞い込む。
弔いと嘆きの夜明け。それでも生き続けるのは、"笑って死ぬために"。