言葉は凶器だ
気が付いた時には胸を串刺しにしてなおかつ傷口をえぐるのだ。
「ナルト」
これは優しさなんかじゃない。
これは拒否を許さない絶対者の声。
止めてくれ、と何度も何度も叫んだ。それでも絶対者は許してはくれない。
「なると」
俺が何をしたと言うのだろうか。
気が付いた時には里人から忌み嫌われ、拒絶されていた。
生きる事さえ許されないのか、と何度も涙をのんだ。
「なると」
もう解放してくれてもいいじゃないか。
どんなに頑張っても誰も認めてはくれなかった。
これからだって誰も俺を見てはくれない。
ならば解放してくれてもいいはずなのに、それすら許さないと言うのだろうか。
「ナルト」
内から聞こえる声が少しずつ大きく、抗えない。
いや、抗いたくないのだ。この声に身を委ねれば何も考える事も嫌なことも、全て目隠ししてくれるから何も知らなくていいのだ。
それは甘美な誘惑。
「ナルト」
ほら、声が聞こえる。
この声に身を委ねるだけでいいのだ。
―――どうして。今更なのに、どうして体が動かないんだろう。
こんな世界どうなってもいいじゃないか。
いっぱい傷つけられた。
沢山拒絶された。
なのにどうして体が動かないのだろうか。
彼奴はいつも優しく抱きしめてくれる。
爺ちゃんよりずっとずっと傍にいてくれる。
毒を盛られる事も無ければ傷つけられる事もない。まして侮蔑の視線をなげられることもない。無関心でもなく、ちゃんと俺を見てくれる。
なのにどうして体が動かないのだろうか。
わからない。
何もわからない。
胸が熱くなるのは何故なんだろうか。
こんなにも涙が止まらないのは何故なんだろうか。
何ひとつわからない。
わからないことばかりだけど、きっと俺は・・・・俺に優しくないこの里が好きなのだ。
認めたくはなかった。
「ナルト」
絶対者の声が小さくなっていく。彼奴はきっと許してくれるのだろう。どんなに俺が絶対者である彼奴を拒絶しても彼奴は許してくれる。そんな確信に胸が痛かった。
真っ暗闇に光が満ちてゆく。
彼奴がいる場所はいつも暗く、冷たい。
光が弾け、目の前には大嫌いで大好きな火の里。
爺ちゃんが治める里。
いつかきっと、この里を滅ぼす日が来ようとこの光溢れる里は変わらなければいいと思う。
何も変わらず光溢れる里であって欲しいのだ。
そうすれば躊躇いなく滅ぼせるから。
「うちはイタチ」
名は記号。
名は人を表す。
この男の目には火の里はどう言う風に映っているのだろうか。
憎しみも恐怖も侮蔑もなく、それは無。
無関心なのか無感動なのか。イタチの目にはまるで闇が住み着いているようだと、初対面ながら思った。
爺ちゃんに紹介された新しい護衛のイタチに少しだけ興味がわいた。
前の護衛の様に直ぐには居なくならないだろう確信はある。ならばイタチに感じる虚無めいた釈然としないものはなんだろうか。
ふとイタチと視線がかち合い、深い闇を見た。
駄目だと思った瞬間には互いに捕われていた。
この出会いは必然だったのだろうか。
イタチの内に潜む悲しみがわかるのは、イタチが俺と同じモノを抱えているから。
だからイタチにも俺の内にある感情を察したのだろう。
真っ暗な闇が少しだけ驚いて、静かに細まった。
ただの偶然ならばよかった。
そうすればイタチに関わる事は二度と無かっただろう。
イタチは言葉なく膝を折った。
それに驚いたのは爺ちゃんだ。
真っ直ぐ見つめてくるイタチの視線を感じながら、笑った。
「よろしくってばよ」
虚勢でもなく本心からの笑み。
抗えない波が全てを押し流す。
うちはイタチにとって小さな金色の子供がイタチの総てである。
小さな手はイタチを押し留める。
いつか決壊するダムが胸の内にあるのだ。
イタチはそれに抗わない。
小さな金色の子供が手を握ってくれるのなら、イタチは胸の内にあるダムを決壊することなく押し留めるだろう。
それで金色の子供が傍にいてくれるのならば安い対価である。
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