●● 大空の軌跡に続くもの ●●
産まれる前。それは前世、とでも言うのだろうか。
記憶の奥底に確かに存在した、自分であって自分ではない思い出。何の因果が成せるか知らないが、いい迷惑だと思っても仕方がないだろう。
怒涛の様な人生だったとしても、死ぬその瞬間まで浅ましいほど生きた人生。
何気に満足した人生だと思っていたが、間違いだったのだろうか。意識しなくとも滲み出てくる記憶と言う名の思い出。
哀しいのか。嬉しいのか。よく分からないが、まぁあれだ。
責任者出てこい
★☆☆
よく晴れた日ほど心地よい眠りに誘われるのは必須。連日続いた豪雨が嘘のように晴れた空に架かる虹を見上げながら抗いがたい眠りに身を任せてみるのも一興だろう。
まるで平和、と言う言葉が当てはまるかのような平凡な日常。何度夢にまで見たそれが有触れた日常として存在する軌跡。
平凡と普通をこよなく愛する沢田綱吉少年改め、沢田綱吉嬢は長閑な日常をかんぽするのだった。
身に付けた小物は少女と言うよりは少年と表してしまうほど質素なものばかりだ。
不揃いの短く切られた蜜色の髪は散発と言うよりも、まさに切った、と言うべきか。癖毛の髪がさらに突拍子も無い方向に飛び跳ねていた。
平均以下の身体がさらに少年のようにも思わせる沢田嬢の心許ない胸元にはかつて沢田少年時代に継承し、次代へと引き継がれた指輪が陽の光にキラリと輝く。
忌々しくも受け継がれるべき血は大空の系譜。
しかもありがたいことに直系ときたら、嘆くのも馬鹿らしいほどだ。
幾度となく破棄したはずの指輪が手元に舞い戻ってきたときには流石に殺意すら沸いたほどだが、今となっては諦めの境地だ。何事も諦めは肝心だと思う。無能な今代が悪いのだ。
かつての殺伐とした人生よりも今の長閑で平凡な人生を生きることを決めた沢田嬢の第一歩として、昼寝を決め込むことにした。
目に鮮やかな色とりどりの花が咲く季節。季節の風に髪がそよぎ、見上げた空は心地よい程の晴天。
始まりを知らなければ終りも知らない。
継承の儀は断たれ残されたのは怠慢にも膨れ上がり過ぎてただれた因習。
流石にその一端を担ってしまった責任はいやめないが、だからといって受け入れる事など出来る筈もなく。
この際全てを一掃するべきか、と思い立ったが吉日。
終りを知らなければその身をもって叩き込んでやろうと思っていたが、その必要性が絶たれた。
悪習まみれのただれた因果関係に終りをもたらしたのは彼の偉大な大空。
確かに、大空の系譜を継承する青年。
廃れた敬称の儀をその血を持って復活させた今代の大空。見るも鮮やかな風に大空の系譜は終焉を知る。
いずれ何の因果か手元に転がり込んだ指輪は本来の持ち主の元へと還ることだろう。
その時こそが偉大なる大空の終焉の時だ。
業のなせる血によって築かれた城は終わる。]世(デーチモ)を受け継いだ自分には出来なかった終わりが。
寂しさは無い。ただ今代に背負わせてしまった事実に泣きたくなった。ダメツナの名は返上できたと思っていたがそうでもないらしい。肝心なときにトチってしまったのだから。
きっと守護の名を冠する友達は笑って、ツナらしい、と言ってくれるだろう。
古くからの家庭教師様はニヒルな笑みを浮かべ、お仕置きだ、なんていっている頃か。
どちらも呆れている事には変わりなく、無性に皆に会いたくなった。