辺り一面を覆いつくす白銀の世界。見渡す限り全ての色彩を奪い、まるで世界にただ一人取り残された様な錯覚に陥る。
これは夢なのだろうか。ふっ、と両の手の平へ視線を向ければ、白銀一色が嘘のような色鮮やかな朱色。
ベットリと朱色に染まった両の手は罪の色。何故、と戦く唇は寒さよりも恐怖に震えていた。
これは夢なのだろう。恐怖に駆られ見渡した世界は赤く塗り潰されていた。
 アナタは信じますか?
身を震わせやり過ごそうとした恐怖が舞降りた。
その声は優しく、穏やかに。慈しみさえにじませた声に恐怖は一層増した。
優しい声とは裏腹に紅玉の瞳は冷徹な支配者の如く凍てつく真冬の夜を思わせた。
あぁ。本能が告げる。
 逃げろ、と。
それと同時に、逃げられないのだと知っていた。
これは夢。悪い夢。降り始めた雪はシンシンと降り積もり全てを覆いつくす。
頭の中で警鐘が鳴っていた。
どうする事も出来ず立ち尽くす姿は救いを求めるかの様にひすいの瞳を静かに閉じた。
 悪夢はここから始まった。
大丈夫だと何度言い聞かせても震えろ指先は何も掴めない。
吐く息さえ凍える夜。眼を見張るほど冴えた月夜。まあるい月に全てを見透かされている気分になる。
胸に刻まれた十字が痛んだ。
これは罪。大罪人に与えらるた罰。それなのに 何故優しくなれるのだろうか。
慈しみも、優しさも、全ては幻だと割りきれない甘さ。
 十二時の鐘が鳴る。
終りと始まりの境界線。
いつか、と期待した分だけの絶望。解放を望みながら縛られていることに安堵している自分がいた。
目の前に横たわる少女めいた顔立ちの彼女は愛しいくらい安らかな顔をしていた。
羨ましい、と思うのはおかど違いだろう。それでも思ってしまったのだから仕方がない。
全てのしがらみから逃れられる彼女が羨ましくて・・・。
いつか彼女が漏らした言葉の意味を知る日が来るのだろうか。
来て欲しいような、来て欲しくないような。そんな曖昧さに嫌気がさした。
 十二時の鐘が鳴る。
終りと始まりの境界線が曖昧になり、世界が胎動する。闇に支配された世界から光が消え、闇の眷属が蠢く。
 滴る血脈が鼓動を失い、彼女の命が尽きた事を知らせた。
血の気が失せた顔は白さが強調している。彼女の自慢だった栗色の髪が艶を失い、血と泥に汚れていた。
 愛しさがあったわけではない。
 優しさを求めていたわけではない。
暖かな腕は温度を失い、地べたに放り出されていた。まるでガラクタの様に放り出された彼女はつい先ほどまでの生き生きとした輝きはない。
 赦されない罪を犯した。
いつか神に裁かれる日を望み、生きる意味を失った。




 君は神を信じますか?










男の声が耳の奥にこびり付いて離れない。