苛立ち紛れの舌打ちも今では更に苛立たせる要因でしかない。
何かがおかしい、と感じた直後、世界は暗転していた。
世界に名だたる最強を誇るヒットマンが一瞬にして敗北した瞬間である。
「残念だったね、死神。でも此処まで来れたのは君が初めてだよ」
穏やかな声は想定していたものより若々しい。どこか気が抜ける様な表情は平凡だ。
これが裏社会を牛耳るドン・ボンゴレなのだろうか。
殺気も気配も感じさせないドン・ボンゴレ十世の姿は一般に出回る情報からは想像出来ないいでただった。
「アメ、食べる?」
ポケットからは色とりどりの包装紙に包まれたアメが飛び出してきた。その中のひとつを取り上げ、口の中に放り込んだドン・ボンゴレこと沢田綱吉はまるで子リスの様に頬を膨らませている。
本当にこいつがドン・ボンゴレ十世なのだろうか。本気で悩む所だが、目の前の男からは一切の気配が感じられない。故に、ドン・ボンゴレと思わずにはいられないのだ。何分、最強と言われるヒットマンの背後を一瞬にして取ったのだから。
だからといってドン・ボンゴレ十世と認めるには腹立たしい気がする。
のほほんとした顔は締まりがなく、かといってスキがあるわくけでもなく。どことなく掴み所のないドン・ボンゴレ十世。
危機感が無いのか、はたまた最強のヒットマンに狙われても生き残れる自信があったのか。あれだけ騒を起こしたはずがひとっこ一人現れやしない。不気味な沈黙を保ったまま、ドン・ボンゴレ十世の館の一室で漆黒の死神と詠われる最強のヒットマンとドン・ボンゴレ十世沢田綱吉の視線が交差した。
万人が賛美を贈るほどの整った顔立ちはさぞかし女性にもてることだろう。
ちくしょー羨ましいぜ、なんて内心考えているドン・ボンゴレ十世。内心など一切おくびに出すことなく、微笑みさえ浮かべてみせた。
死神と詠われた男の怪訝な表情さえ様になるなど場にそぐわない思考とは裏腹に、ドン・ボンゴレ十世はさてどうしたものか、と瞬きひとつ。この状態はまさに沢田綱吉にとっては予想外だ。だが、ドン・ボンゴレ十世にとって好機である。。
アルコバレーノの一角を担う死神の噂は耳にしていたが、いざ目の前にすれば些か迷いもでよう。身に抱える問題が山の様に次々と舞い込んで来るのに更に問題を抱えたくなういのが本音である。だが、今現在人手不足のボンゴレにとっては厄介ながらも喉から手が出るほど欲しい人材だったりするから質が悪い。
さて、と目の前の死神へと視線を投げ掛け、口元にうっすらと笑みが浮かぶ。
「ルックシは問題なし。でも性格には少々問題ありかも。でも・・・・まぁ、大丈夫かな?」
ねぇ、どう思う?
目をパチクリと瞬かせたドン・ボンゴレ十世の姿は幼い容姿がさらに幼く見える。下手したら犯罪級の年齢詐称だ。まぁドン・ボンゴレ十世自体が犯罪組織の事実上のトップなのだから別段気にする事はないだろうが、公式に出回っているドン・ボンゴレ十世のプロフィールでは24歳だった気がするのは記憶違いか。どう見ても目の前のドン・ボンゴレ十世は十代なかばにしか見えない。
「君、今とっても失礼な事考えたでしょ」
どこか人をくったような笑みが一転、頬を膨らませてすねた表情を作ったドン・ボンゴレ十世はさらに幼い。だが、今まで見てきたどの表情よりもらしい、と思える顔だ。
ふっとそんな事を考えた自分に驚きだ。かすかに目を見張らせ、驚きの表情を見せる死神に気分を良くしたのか、ドン・ボンゴレ十世は些か弾んだ声で死神へと爆弾を投下する。