世の中一体何が起きるか分かったもんじゃねー。
微かな溜め息ひとつに肩の荷が更に重さを増した気がした。
はっきり言って趣味じゃない。だが請け負った仕事はきっちりやらせもらう主義だ。手加減も容赦もする気はない。
何よりも完璧を求める死神である。だからこそドン・ボンゴレ十世のお目がねにかなったのだが。ニヤリと不適に笑った死神は肩に乗っている相棒の背を撫でた。
「上等だ。やってやろうじゃねーか」
クッククク笑う死神は真昼のボンゴレ邸の中庭で不審者丸出しだ。生憎と死神の気配を追える者が居なかった事が何よりの救いだろう。
本来、死神に舞い込んで来た仕事はドン・ボンゴレ十世の暗殺である。
ボンゴレの奥深くに居るドン・ボンゴレ十世の姿を知る者は限られている。全盛期には頻繁に前線に出ていた筈だが、その存在は知られていても姿までは噂が一人歩きしている状態だ。故にドン・ボンゴレ十世の情報はどの組織も喉から手が出るほど欲しいものだが、それよりもドン・ボンゴレ十世の暗殺が今のどの組織も支流である。解りやすい構図が出来上がっていた。そしてそんな構図を崩そうと躍起になったファミリーがドン・ボンゴレ十世暗殺を企て、世界に名だたる最強のヒットマンに依頼してきた訳である。
何とも解りやすい話だ。
死神は人知れず静かな邸内へと足を踏み入れた。
これが名高いボンゴレなのだろうか。本来なら人の気配が会って叱るべきドン・ボンゴレ十世のいじょうに最低限の人の気配しかない。異常だ。異常過ぎてボンゴレがいかに現状維持に躍起になっているか一目でまるわかりだ。よく他ファミリーに今まで気付かれなかったか内心不思議である。いくら人材不足だろうとこの異常事態に死神を腹の底から笑いが止まらない。
まんまと欺かれていたのだ。ドン・ボンゴレ十世に。
これを笑わずして何を笑えというのか。
不遜に笑みを浮かべるドン・ボンゴレ十世の姿が浮かんでくる。
『君にお願いがあるんだ。勿論聞いてくれるよね』
有無を許さない笑みを浮かべて、ドン・ボンゴレ十世沢田綱吉は躊躇いなく捕われた死神の前に跪いた。
数分のロスに死神は内心舌打った。目の前でニコニコ笑っているのはドン・ボンゴレ十世本人である。どこかこ動物を思わせるパチクリとした瞳はキラキラ輝いているのはきのせいか。
何か期待されている。それも思いっきり期待されている。
「宜しくね」
信じらんねー。