迷っている時間は無い。決断を下さなければならないのだ。
それが組織の頭たる務めであり、ファミリーに仇なす存在を許せる心優しさなど不要だろう。
それでもちょっとだけ良心が痛むのは仕方がない。
長い年月を掛け巨大な組織として常にトップを走り続けてきたボンゴレに牙を剥いた組織など数知れず。全てはひとつ残らず粛正され、常に危険を伴う抗争は更にボンゴレの結束を断固なものとなした。
現ドン・ボンゴレ十世がその地位を冠したおり、内紛に紛れ数多の組織が若輩と嘲笑ったボンゴレ十世に弓を引いた。
それはボンゴレならず裏社会全体へと飛び火し、ボンゴレの屋台骨は常に揺らいでいた。
血塗られた絨毯を踏みしめ、抗争の真っ只中を先陣をきって駆けるドン・ボンゴレ十世の姿は正にドンの名に相応しく、それが何より恐怖だった。
先代から続くボンゴレの同盟ファミリーはドン・ボンゴレ十世に忠誠を誓い膝をおった。
ドン・ボンゴレ十世の果敢さは瞬くまに裏社会を駆け抜け、ボンゴレに弓を引いた組織は次々と姿を消した。それはある一種の恐怖である。
当初の期待を裏切り、若輩者だと嘲笑っていた者達は恐怖に顔を引き攣らせボンゴレに跪いた。
それが始まりである。
ボンゴレの名は裏社会のみならず、経済界にはまでボンゴレの異名を知る事となった。
だが、ドン・ボンゴレ十世の名のみが人々の間を一人歩きし、ドン・ボンゴレ十世がどのような人物なのか誰も知らない。
決断を、と迫る幹部達は常にドンの為にある。いや、ドンたる沢田綱吉の為に、が正しいだろうか。
沢田綱吉がボンゴレ十世の名を冠してから数年は抗争にあけくれ、漸く正常に機能をし始めたボンゴレは平和とはいかないまでも、穏やかさを取り戻しつつあった。
そんな矢先、ボンゴレ歴史上から続くドンを護る守護者の確保を、と幹部達からの要請である。
そもそも守護者とは、初代ドン・ボンゴレがボンゴレファミリー結成時に自ら捜し求め集められた6人の幹部を示す称号だ。
それ以後、ドン・ボンゴレとなる者は自ら補佐と護衛を兼ねそれた【守護者】を伴うのが慣わしとなった、と言われている。
人生、先が見えないからこそ面白いのだ、と本気でそう言える奴が羨ましいと思えるのは、この忌まわしい血が未来を紡ぐからだろう。
先代よりも鮮明に、それこそ先祖返りだともっばら噂される程この忌まわしい血は全て見通す。歳を重ねる事にそれが酷くなっている様に感じるのは気のせいだけでは納得出来ない。
嫌気がさすほど幾度もボンゴレの血に救われてきた身としてはご先祖様の悪口は言いたくないが、そろそろ解放してくれてもいいのではないだろうか。
小さな亀裂は未だ見付からず、予言された未来を歩む。
そう、全ては初代ドン・ボンゴレが定めた予言が始まりであり、ボンゴレは初代の予言が産み出した防波堤なのだ。
そして防波堤を護るのがドン・ボンゴレである。
いつかの終りを夢見ながら巨大な組織を維持し続けなければならない。先代達が築き上げてきたボンゴレを今の代で壊す訳にはいかないのだ。
あまたの不安とプレッシャーから逃避したくなるのは仕方がないだろう。新たに迎える予定である守護者のリストに目を通しながらドン・ボンゴレ十世は閉鎖された世界に生きる。
そこには畏怖と尊敬を一心に集めたドン・ボンゴレの姿はない