ビオルク♀ 婚姻の儀編









 へいか、小さく漏らされた言葉は躊躇いを含んでいた。
深紅、というよりも朱色の髪は毛先に向かい見事なグラデーションを見せる朱金色だった。
若干十七歳の少女と淑女のアンバランスさが垣間見せる花嫁は国一番の祝福を受けているにも関わらず困惑した面持ちで、祝福された花嫁と言うよりも生贄に差し出された子羊の様にも思えるから不思議だ。
長年敵対国であったキムラスカ大国とマルクト帝国の和平への歩みよりは中立国家アダトの協力によって実現されたのだ。
和平の足がけとしてマルクト皇帝とキムラスカ大国王妹にしてファブレ公爵夫人の愛娘との婚姻により固く結ばれることとなったのだ。
 長年の争いによって疲弊したい領土はマルクト皇帝の婚姻により歓喜に沸いた。
着々と両国間によって盛大な式典は現実となり、純白のドレスに身を包んだマルクト后妃へとなる少女の際立った存在感は圧巻だろう。
一瞬にして会場は静寂に包まれ、感嘆の吐息に誰もが讃美する。
 ベールに隠された素顔にはありありと困惑と戸惑いが見て取れる。
三十台半ばに差し掛かったマルクト皇帝に比べても見劣りない出で立ちは、公爵令嬢にしてキムラスカ王国王位継承権四位は伊達や酔狂ではないだろう。



マルクト帝国にて開催された式典はつつがなく終わりを迎え、残されたのは一組の男女。
挙式を終えた皇帝と后妃のために用意された部屋は長年親しんだ皇帝陛下の寝室ではなく、古き因習に乗っ取り目に鮮やかなピンク一色にて統一された寝室だった。
マルクト帝国過信一同よりの無言の圧力を垣間見た瞬間だった。









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