一度目に焼き付いた光景をいとも容易く忘れられるはずがないのだ。
そうと分かっていたニヤリと笑う男は質が悪い。そんな男に惚れられた身としては些か悪い気もしないこともないが、それでも質が悪すぎる。
来る者拒まず去る者追わずの精神は何処になりを潜めたのか、会う度に執拗なほど執着心と独占欲を見せる。それが嬉しくないハズがないのだが、少しだけ、ほんの少しだけ困る。男のことを知れば知るほど嵌っていく自分を目の当たり、これ以上は、と踏みとどまることも出来ずに溺れて行く。
それは有る一種の恐怖だ。がむしゃらに腕を振り回し子供のように駄々を捏ねようとも男は笑ってそれを甘受する。大人の貫禄とも余裕とでも言いたいのかそれに腹を立てる自分が嫌いだった。
日の光にキラキラと輝く髪に指を絡ませ、夢現に囁かれる言葉にどう対処して良いのか困惑気に笑う。
「好き」よりも「大好き」。
「大好き」よりも「愛している」。
足元に膝を折り忠誠と愛を囁く男は許しを請う。
馬鹿だと囁くように呟く声すらも愛おしいのだと男は笑う。笑った顔が以外にも幼く見えるのは惚れた欲目では無いだろうけれど、指先に絡ませた髪を好きながら男に応えることの出来ない自身が歯がゆくてならない。
背後で静に存在を表した金髪の美女が退室の声を掛ける。
「あぁ もうそんな時間か」と男は悠然と笑って退室を伝えに来た美女に頷いてみせる。
腰にまとわりつく男の凪の無い翡翠の瞳が一瞬後に控える美女の瞳と交わり、伏せられた。男にしては長い睫毛によって隠された翡翠の瞳が惜しく思う。
そっと瞼の上に指先を這わせ、静に嘆息する。
どこもかしこも綺麗な存在だ。丹精込めて造られた人形の様な綺麗な肌も顔立ちも、魂すらも美しく、人の目を惹き付けて止まない。
そっと触れるだけの口付けを。嬉しそうに笑う男の質の悪さはこの時ばかりは成りを潜め、幼子のように全て甘受していく。まるで男の母親になった気分だとガラにもなく思ってしまうほど。











目を疑うほどにあなたは似ている