出先で見つけたその色は記憶の中にある色とよく似ていた。
むしろ同色。瓜二つだと言ってしまいたいほどよく似通っている。
漠然とながら「見つけた」のだと感じた。探し求めていたものが目の前にあって、誰がそれに手を伸ばさずには居られるのだと言うのだ。
 長々と続く小言に耳を傾ける気にはなれない。
心配してくれていることは出会い頭で直ぐに知れた。申し訳ないと思う反面、逃がした獲物がでかすぎた。
また漏れる溜息に肩を窄め、もう良いだろうと手を振って止めさせる。
年若き当主に深々と頭を下げ、未だ納得しきれていない表情を表に出したまま退出していく。名門だの貴族だの、堅苦しいものは嫌いだが、それでも叩頭する男を嫌いにはなれないのは古い付き合いのせいか、それともあの日を共有する者だからなのか。
遠くで聞こえる幼い声に瞳を閉じ、出先で見つけた色を思い出す。
欲しいと渇望する胸の内とは別に、それに触れることを拒絶する。触れたら壊れてしまうのでは無いのかと危惧することはない。あの色はそれほど柔ではないことを身を持って知っている。ならば何故躊躇うのかと問われれば、怖いのだと応えるしかない。
一度は失ったあの色は思いがけない所で見つけたせいか、それとも騙された、と言う思いが強いせいか。
ただ漠然とした恐怖だった。身体を駆ける得体の知れないモノに冷や汗交じりに肩を抱いた。
「乱菊さん」
 傍に控えた優秀な秘書官へと声を掛ける。
金髪の綺麗な髪を背に流し、豊かな胸元が何時もきつそうな服によって隠されている。
静に傍で叩頭する秘書官はかつてのあの色を知る人だ。だからこそ側に置いているのだと胸の内でのみ応える。
「探して欲しい人が居るんだ」
 思いがけない主の声に驚いたように頭を上げる優秀な秘書官の失態に今は目を瞑っておく。それでなくとも我が侭を言っている自覚はあるのだ。

 渇望する それは喉の渇きにも似た 渇望だ










 思いがけない声に不覚ながらも一瞬の躊躇いが生まれた。
幼いと言うには老成した感が否めない主の言葉は少しの躊躇いさえも含まず真っ直ぐに言い放たれた。
何事にも興味を示さないその姿に焦がれる者は多くとも、決して一定のラインを超えさせることはしない。かつての彼の様な失態を犯したくないのだろう。
口元に含んだ笑みは何処か愛おしそうで、辛そうにも見えた。
そう言った表情は此処最近は見慣れたものであり、隙のない常に気を張った面差しは幼さが全面に溢れていた。
渇望、とでも言うのだろうか。子供が玩具を見つけたような爛々と輝く瞳に少しだけ安堵感が生まれる。
「珍しいわね」それが最初の言葉だった。
特徴的な伸ばされた橙色の髪に指を絡ませ、何処か遠くを見つめる鳶色の瞳に興味が湧いた。
「とても綺麗な色を見つけたんだ」
 夢現なその表情に飛び上がるほど目を惹かれる。幼馴染みの男が言う、愛らしいとか可愛らしい、と言う表現よりももっと別の・・・・言い換えるならば恋する乙女、の表情だ。
うっとりと溜息を吐いたその姿はかつての上司によく似ていると思う。そしてその上司が愛していた目の前の主もまた、上司と同じ様な表情を見せる。
これは何かあったな、と一目瞭然だ。
 喉がカラカラに乾いて水を欲している。
唇を湿らせ、震えそうになる指先をきつく握り締め意を決して鳶色の瞳を見上げた。
全ての者たちを魅力する鳶色の瞳は愉悦の笑みを称え、淡く色付いた唇が薄く開かれる。
「日番谷の一粒種が見つかった」



 それは恐怖 計り仕切れないほどの 愉悦感





瞼の裏に映るあなたは、誰