年の頃は十とちょっと、と言うところだろうか。
人目を避けるように薄暗い裏路地へ身を潜めるその子供の外見的特徴は少年の意思に反して人目を引くような鮮やかな色彩だ。
真冬の雪を思わせる白銀の髪と翡翠の瞳。
小柄な身体とは正反対なほど座った目つきの鋭さは貫禄とでも言うのだろうか。とても少年が持つような物ではない。
だからこそ惹かれたのかもしれない。
あの、吸い込まれるほど研ぎ澄まされた翡翠の瞳に・・・・。



黒崎、と言えば世界トップに君臨する企業である。
十三の企業が集結し、その頂点に立つ黒崎の名を轟かせたのは、現当主にして齢十六を迎えたばかりの少年とも青年とも言えない曖昧な年頃の子供であった。
色鮮やかな橙色の髪は母親譲りだ。鳶色の瞳は全てを見透かすかの如く。まさに治世者とも王者とも言われる程、世界に君臨する黒崎の当主であった。
絶対的な存在、とでも言うのだろう。黒崎の膝元、十三の企業の内、ひとつを除いて黒崎へと膝を折った名家の子息。忠誠と親愛を表す華を渡された十三の企業主。
その内のひとつ、名門と唄われる朽木家当主にして十三の企業の六番目に当たる当主・朽木白夜は静に溜息を漏らした。
整えられた指先が空を切り、目の前にふてくされた様に胡座を掻いて鎮座する主を宥めるように置かれた茶菓子は主の趣向の物である。
未だ幼さの抜けきれていない丸みを持った顔立ちは年月と共に漆黒の花とも謳われた母親によく似ている。あの日から伸ばされ続けた髪は後背に一括りされ、目にも鮮やかな橙色の髪は否が応にも漆黒の花を沸騰させるには充分だった。
この場に最近引き取ったばかりの義妹が不在な事に嘆息した。
今、世を騒がせる黒崎の当主の突如の訪問に慌ただしい邸内から切り離されたその室内は、静寂とは言い難い雰囲気に飲まれていた。
自由奔放と言えば聞こえが良いが自由気ままな性格は昔、妻が可愛がっていた猫によく似ているとつくづく白夜は思うのだ。本人にその事を告げることは昔もそしてこれからも無いだろうが奔放な性格に振り回される者に対しての配慮が些か欠けているのは幼い故か。
「だから悪かったって言ってるだろ」
 ぶっすりとふてくされ、そっぽを向いた子供に対して更に漏れるのは溜息ばかり。
つい先日、お忍びと称して街にくり出したのは記憶に新しい。
あの時は護衛に赤髪の男を付けておいたが帰ってきたときには二人してボロボロになっていた。さすがにあの時は肝が冷える思いだったぞ、と子供にとって叔母に当たる美女が豪快に笑って諫めていたが今回はそう言うわけには行かないのだ。
その叔母に当たる美女は現在この場に居合わせては居ない。むしろ知られてはいない、と言った方が良いだろうか。
勝手に屋敷を抜け出し、その挙げ句迷子になって発見された等という愚考も甚だしいはた迷惑な子供は、些か反省の色さえ見せることなくむっつりと押し黙った。
「兄は些か軽率過ぎる」
 四大貴族の名家と言われる朽木家当主のこれまた何度目になるか分からない叱責と説教に胡座を掻いたまま子供はうんざりした表情を惜しげもなく晒しながら深い溜息を吐いたのだった。










ふとした時に思い出す