久しぶりにみた夢は彼と出会いからだった。
案外頑固で意固地な彼は潔癖とも言えるほど蛋白でもありながら真っ直ぐに前を見据える瞳は昔も今も変わらない。








 警音が鳴り響く。脳内の情報整理を一時中断させてまでやらなければならないことは、身ひとつでこの場から逃げ出すこと。
床一面に散らばった紙はどれも極秘情報。この情報が有れば今度の戦では有利に立てるというものの、誰かがミスを起こしたのか。敵陣のど真ん中で警備の厳しい場所でへまをやらかした部下が恨めしかった。このままでは見つかるのも時間の問題。ならばいっそのこ施設丸ごと吹っ飛ばしてやろうかと考えてみるにしても余りにも面倒臭い。それなら逃げた方がまだましだろう。
 士官学校卒業後、一等兵として戦陣を駆けたのはまだ記憶に新しく、いつの間にか狗と呼ばれる工作員紛いな情報局に勤めている。一様、軍内部情報に最も精通し、敵の内部情報を洗い出す仕事は先陣を切るよりも死亡率が高い。何故自分にそんな役目が回ってきたかと言えば、人手不足だったとも言える。
 情報処理は親友の得意分野だったと思い起こした記憶の中で、温和に笑っている小島水色がいる。卒業以来滅多に会えないままの今日この頃。無事に帰れたら連絡でも取ってみようかと呑気に思考してみる。
未だ鳴り続けるサイレンは止む気配もなく、慌ただしい足音があちこちに聞こえてくる。ここからそろそろ逃げなければ、それこそ蜂の巣になるだろうことは分かっていてもミスを犯しただろう部下が気になったのも本音。
まだ新米とは言えない部下。自分のような戦場を駆けていた人間より情報部に所属しておきながらやっぱり何処か抜けているのは何故なのか。あちらこちらで銃音が響く中、あぁ駄目だ、とひとつ溜息。
 他の仲間との合流地点はここから三s離れた廃虚ビル。さて、どうやって逃げようかと思案中。


「いっそのこと、華々しく散ってやろうか・・・」
 不穏な言葉と共に敵基地に轟く爆音。











二輪の櫻