いつからなのか覚えてはいない。気が付いたときには既にこの手を紅く染めていた。
馬鹿げているようで本気。嘘のようで真実。世界が覆う闇が求める光すら奪い尽くす。

「貴方を、愛してます」

 もしこの腕に守れる力があったなら少しは変わっていただろうか。
 もしこの世界で貴方に出会わなかったら、僕は人間で居られたでしょうか。


 切実な想いとは裏腹に、殺したいほどの殺意が芽生えた。

















「そういうの 告白って言うんですよ」
 耳元で囁く男の声が熱を帯びていた。
間近に見る紫暗の瞳が細められた中に焔が見えた。まるで全てを焼き尽くす様な燃える焔に身を竦められた。
枯れ草色の髪が頬を掠め、男の骨ばた指が顎をすくう。
「ねぇ、黒崎さん」
 それは甘い誘惑だった。
男の持つ独特の色香に色事を知らない少年にはどうすることも出来ず、触れた唇を割って入り込む舌に翻弄された。全てを貪り尽くす男に為す術もなく縋り付いた自分に羞恥を覚えるよりも、男との激しすぎるほどのキスに溺れていた。
何故、とか。どうして、とか。そんな言葉すら陳腐のようで、男を拒否できない自分が存在していた事実。
 これ以上は・・・。
頭の何処かで警音がなる。これ以上は駄目だ、と。
全てを犯し、蹂躙する男の激情を受け止めた少年の身体は、いとも容易く快楽に流される。
「ふっ・・・・ぅぅぅ」
 喘ぎと言うより拒絶の入り混じる声だ。漏れた唾液と息継ぎすらままらない激しさ。洋服の裾をから忍び込む指先にすら気付かない程の激しさに翻弄され続ける。
獣だ。まるで男は肉食獣の様に全てを奪いつくす。
歯列を割って入る男の舌先が生き物の様に蠢くたびにいい知れぬ快楽が背筋を駆け上がった。
霞みかかった頭では何も考えることすら出来ず、拒否すらできないまま男を受け入れた口内を蹂躙し尽くした男が漸く唇を離したときにはすでに手足の感覚すらないほど朦朧とした意識を保つのがやっとだった。
「いい眺めッスね」
 くすり、と笑った男が残忍なほど艶を帯びている。
うっすらと開かれた鳶色の瞳は、男の枯れ草色の髪の更に向こう側。染みひとつない真っ白な天井を見つめていた。
「ねぇ、黒崎さん。貴方は許しはしないでしょうね。」
 それでも求めずにいられなかったアタシはどうしたらいいんでしょうね。
忍び込んだ指先は少年の躯を這い、縋るように絡められた指先に触れるだけのキスを落とす。
「逃げないで」
 受け入れてほしいだけなのだ。
男のもてる全てを注ぎ込んでも有り余るほどの愛情が胸を焦がす。
これは独占欲なのだと、男自身知っていた。初めて知った感情が空回りするたび、求めずに入られない。
 胸に咲いた果実を弄びながら男は静に笑った。



もしこれが愛情というのなら、世の中狂った人間で溢れかえっている事だろう。
自嘲にも似た笑みが口元を彩り少年を腕に閉ざし男は静に身を浸す。