「俺は馬鹿だ」
 頭を抱えて唸ってみてもなんら解決策は見つからない。
赤髪の悪友が心底嫌そうに溜息をついている。酌み交わす酒の席で辛気クセー、と悪態付きながらも同情心が溢れている。
「お前もついてねーよな」
 特に恋愛関係に、であるが。
「うっせーよ」
「おうおう。折角慰めてやろーってんのによ」
「余計なお世話だ」
「っけ」
 真っ赤な燃える様な赤い髪を掻き毟りながら男は沈痛な顔をして酒を飲む悪友をチラリと見つめた。
重症だ。見ているこっちまでが辛気臭くなってくるほど男のウジウジとした姿は見たくない。
「しっかしよー。お前これで何回目だ?あれか。恋愛音痴にも程があるぞ」
 そうなのだ。この悪友は恋愛と言う恋愛に置いて全くの不能なのだ。
しかも本命に対してだけである。他の思いを寄せていないどうでもいい女にはスムーズにエスコートも口説く事も甘い言葉を囁く事もできるのに何故だか本命にだけは全く無用なほど口に出来ない。行動に移せない。と言う風なのだから始末におえない。
見かけだけはちょっと良い方に入る悪友はどちらかと言えば女より男の方にもてる傾向だが、至ってノーマル・・・だと思う。
確信は無いが今まで付き合ってきたのは全て女だ。だから男には爪の先ほどにも興味は無いのだろうが、何分女より男にもてるのだ。
今まで様々な男に言い寄られているのを目撃した。あの時の衝動と言ったら言葉には言い表せないほどの衝撃だった。
社会人になってからその傾向が酷くなっているようだが、至ってノーマル(だと思う)な悪友は女にしか興味を示さない。そして尽く女に振られる。
付き合って一ヶ月持てば最長記録を更新するだろう。最低でも二日でふられている。
その時もこうやって一緒に飲み交わしていたな、と遠い昔の思い出に変わらない悪友がちょっと恨めしい。
 大抵の女は男に庇護欲を見出す。そんな女を選んでいるのかいないのか、恐らく無意識の内にそんな女を選んで付き合う悪友だ。
無意識、と言う所がまたまた始末に終えない。
庇護欲と言うのは男に見出すものではない、とつくづく悪友を見て思う。庇護欲を掻き立てられた女は何時も決まって悪友をふる。
それは至って簡単。女の方が耐えられないのだ。
「俺は悪くない!」
 酒の勢いも乗って叫ぶ悪友は一気にビールを飲み干した。
薄汚れた店内の暗めの照明に照らされた色素の薄れた橙色の髪が幻想的に見える。男、と言うよりは線の細い悪友のほんのりと色付いた頬に欲情を駆り立てられる輩は悪友の周りにごまんと居た。何故だか分からないが(分かりたくもない)そう言った輩にこの場面は見せられないな、と心底思ってしまった。
「大体よー。俺は何も悪くねーんだ。・・・・彼奴が」
 苦虫を盛大に噛み潰したようなしかめっ面。濁した語尾はわかりきった人物の名前。
元来、口は悪くとも何かと優しい面を持つ悪友がここぞと言うほど悪意を見せる人間は珍しい。「気に入らねぇ」と舌打ち交じりにそう漏らした悪友を目の当たりにして少し戸惑ったものだ。
 日番谷 冬獅郎
エリート社員であり人当たりもよく誠実。容姿は人並み以上に秀でており社員からの人気は絶大。有能な男だ。