「おい、時間屋」
「おや、なんでございましょう」
 無言で睨み付けてくる小さなお客様は人間とそれ以外の者のハーフでございました。
まぁ、普通の人間でしたら我が主の元へは滅多なことでなければ来られないでしょう。
此度、我が主の元へとはるばる足をお運びになられました小さなお客様は、その外見とは裏腹な"いい性格"をなさった方なのです。
それはもう、我が主と張るくらいの厄介な、それでいて我が主の一番のお気に入りなのです。
 その名を日番谷冬獅郎様と仰ります。
気高い夜の番人・ウルフの血統付きのお方であらせますが、半分は人間の血をお持ちになられておりますのでウルフとしての本能の大半を失っておられます。
それが功をそうしたのかそれとも災いしたのか、それは日番谷様がお決めにならせます事なのでしょうが私から言わせていただければそれは功をそうしたのでしょう。人間びいきであらせます我が主はこの異端者をお気に召しておいでなのですから。
私からすれば、我が主に不埒な思いをお抱きになられております日番谷様は私の敵として排除せねばならぬのでしょうが、これでも我が主の一番のお気に入りでございます。
易々と日番谷様にお手を出すことはすなわち、我が主の意に背くこととなるのですから。
だからと言って、我が主へと手をお出しになられようとする日番谷様をお見逃しするわけにもいきません。
何せ、私は我が主に忠実を誓っているのですから。


 さてさて、此度お見えになられました日番谷様は何やらご機嫌斜めでございます。
別段、日番谷様のご機嫌が優れなくとも私には関係ないことなのですが、我が主へ無礼をお働きになるのは些か見逃すことはまかりかねません。
されど、我が主はそんな日番谷様の態度にさえ寛大なお心でお許しにまらせますのです。
にこにこと笑みを浮かべながら日番谷様のお言葉をお待ちになっておられるようなのですが、どうにもこうにも日番谷様の頬が仄かに色付き初めておいではありませんか。
いけません。これはいけません。
我が主に不埒な目差しを向ける日番谷様は、まさに狼です。狼なのです。
我が主の愛くるしい微笑みに万人が眼を奪われるでしょう。ですが、この現象は些か頂けないのです。
何故かって?そんなもん決まっているではありませんか。
日番谷様はああ見えてもウルフ族の長の血筋を引いていらっしゃるんですから。
遙か昔より、ウルフ族は闇の門番として人間とそれに属さない者たちを見張っている一族です。血族を重んじ、多族を退けるその結束力といったらもう、闇の一族全てを凌駕するほどのものです。あのヴァンプすらも血族を重んじておりながらも結束力に欠けると言われているのです。闇を支配するヴァンプを退ける結束力は、まさに天と地。そしてウルフの動物的本能といったらもう。ヴァンプもお手上げ。
あの"動物的本能"の前には種族すらなんの役にもたちはしないのです。
押して、押して、押しまくって。骨の髄までしゃぶり尽くすほど。
あぁ、我が主の身が危ないではありませんか。
ニヤリとお笑いながら日番谷様が主の手の甲へと口付けをお与えになられるのを見続けなければならない私めは何と耐え難い屈辱。
我が主は僅かに頬を染めてそれを受け入れるのです。あぁ、嘆かわしい。
我が主は何故日番谷様の様な輩をお許しになられるのか、私には皆目検討がつきません。