そもそも同性同士の恋愛ってのもどうだろう、と小首を傾げて聞かれた。
男に迫られ、押し倒され、掘られて、男のプライドずたずただよね、と笑いながら言われた。
そっかープライドねー、なんて笑いながら頷いてみて、あれ?と小首を傾げてみた。
そう言えば俺も掘られる方だった。今更ながらに思い出して顔真っ青。大丈夫?と聞かれても曖昧に頷いて大丈夫と返し、それから胃を押さえる。
男同士って、ちょっとアレだよ。なんて男子校で女に飢えた男が話す内容としては生々しいものがある。
言っている傍で男に尻触られている奴が言える場合か?突っ込みたいが突っ込めない。ハァハァ言っているクラスメイト。割と仲のいいヤツだったのに、そう言う趣味をお持ちで・・・。
俺としてはもうちょっとオブラートに包んで欲しかったぞ。
尻くらい触られたからってぐだぐだ言ってんじゃねぇよ、と凄まれながらあらぬ方へと視線を向ければそう言った趣味の持ち主が多いらしい男子校。あっちこっちで何だか異様な光景が繰り広げられている。
あぁ、共学にしておけばよかった。なんて今更だ。
家庭教師様のご機嫌窺いに疲れて全寮制の男子校にしたのが間違いだった。あぁ、俺の麗しき人生、何処で間違ったんだろう。
まずは耳元でハァハァ言っているクラスメイトを撃沈させ、そろそろ寮へと帰宅しよう。鞄に詰め込む教科書なんて勉強嫌いの俺には有るはずなんて無い。教室の机で静に翌朝まで眠っていてくれるだろう。
放課後の教室と人気のない場所は男子校での一人歩きは危険である。身を持ってそれを証明してくれたクラスメイトに両手を合わせて拝んでおく。無事に寮まで辿り着いてくれよ。今更だが・・・・。
そのうち校内を我が物顔で徘徊する・・・じゃなくて見回る風紀委員が発見してくれるだろう。その後のことは知らないったら知らない。今日の見回りが風紀委員長じゃないことを祈っていよう。
秋空の寒々しい風が身に染みる。そろそろ恋人が恋しくなる季節だ。でも恋人以前に家庭教師としての職務が全面に出ている恋人とは会いたくない。何故無駄なところで凝った趣味を持っているんだろうか。
テクテクと寮への道のりを歩く足取りは軽やかとも重たいとも言えない。あえて言うなら疲れ切ったサラリーマンの様な足取りだ。何だかわび淋しい風景に猫背で歩く姿にちょっとだけ泣ける。
テクテク・・・。テクテクテク・・・。
首に巻いたマフラーが風に揺れる。始めて恋人に貰った贈り物、とは言えば聞こえは良いが寮へと入る間際、ドタバタした最中に間違って持ってきてしまったものだ。未だに返せと連絡は来ないから勝手に使っている。何とも家庭教師様らしい真っ黒なマフラーってありかよ、な真っ黒さ。
って言うか、俺たちって恋人同士だよね?
今更ながらに頭を抱えながら唸って・・・。恋人か?なんて小首を傾げて、あぁ、と気付く。
告白されてねぇ(してもいない)。今更すぎる。
でもベッドインまで果たしてる関係だ。例え家庭教師様に両手の指では足らないほどの愛人がわんさか居たとしてもいちよう同性の恋人(愛人?)はいないはずである。
そもそも何故俺と家庭教師様がそう言った関係になったのか未だにサッパリ分からない。顔良し、スタイル良し、頭良し、何でも出来ちゃうスッパマンな家庭教師様は本業を言わなければそこら辺のモデルよりも格好いい。(本人には言ってやらないけどね)世界各国、愛人を囲っているのにチビでチンクシャで出来の悪い俺と関係を持つことすらおかしいだろう。自分で言っておきながらなんだが、胸がグサリとナイフで突き刺されたような傷みを覚えるのは気のせいだろうか。
あれか?美人に囲まれすぎてちょっと毛色の違うヤツと遊んでみたかった、みたいな?。あり得すぎてもの悲しくなってきた。
猫背が余計に曲がって更に憂鬱さが加わる。足元ばかり見ていたお陰で寮の門にぶつかり、門番に怪しまれた。ついでに尻も触られて踏んだり蹴ったりだ。
門番の股間を臑で蹴り上げ寮母へと帰宅の挨拶を。門前で門番が股間を押さえて唸っている姿は滑稽だ。
何故こうまで男子校は男に飢えてるんだ?女を見つけようよ。
最近一人部屋へと変わって快適な生活。ほんの二・三日前までは二人部屋だったのに急であった。
まぁ、夜中布団に潜り込まれてハァハァされないだけでも快適な寮生活だ。洗濯と部屋の掃除以外を除けば全て学校が雇った業者の人が寮の掃除をしてくれるし、三食美味しいご飯を食べさせてくれる。そこら一般の食卓より贅沢な品々だと思う寮食。いたりつくせりだ。
だが生憎と時間厳守なのだ。特に寮長様は待つのも待たされるのも、群れているヤツも嫌いなのだ。ちなみに風紀委員長も兼任している。頭に恐怖の、と言う言葉が付くが。
規律と風紀には厳しいが、あとは群れていなければ好きなようにして過ごせる快適な寮生活。他の寮より寮長様の治める第二寮は有名だ。ありとあらゆる事に対して・・・。
まぁ、そのひとつが寮長様なのだが、慣れれば問題ない。第二寮の七不思議とまで言われる年齢不詳な寮長様のご帰宅の合図はまだない。きっと学園の見回りでもしているんだろう。群れているヤツを見つけて嬉々と洋服の何処に隠しているのか分からない凶器(トンファー)を構えて獲物に舌なめずりしているだろう。野良猫のような気性を持つ人だ。
大人と子供の境界線上に立つ十六歳という年頃の男子にとって異性との付き合いについて熱く語るのが普通なのだが、男子校という閉鎖された空間において異性と言う言葉は滅多なことでは出てこないのだと知った。知ってしまったよ。
むしろもっと生々しい、目の前にずらりと雁首並べた同じ同性に色気を感じてしまう多感な年頃なのだ。 ちょっとだけ涙が出そう。
そんな中でストイックなほど異性にも同性にも、ましてやそう言ったものに対して淡泊を通り過ぎ、アンタ大丈夫かよ、と問いただしたくなるほどの男が一人。
風紀委員長兼第二寮寮長と言う大層な肩書きを持つ雲雀恭弥は俗世の事に対して疎かった。自由気ままな野良猫気質な雲雀は彼独特のストイックさに惹かれて奴隷志望と言うヤツ等が現れても愛用のトンファーにてぼっこぼこにしていた。
→